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DJ JIN(RHYMESTER / breakthrough)ロングインタビュー!
日本を代表するヒップホップグループ、RHYMESTERのDJ JIN氏。
RHYMESTERのメンバーとしてメジャーフィールドで活動する一方、DJ/プロデューサー集団のbreakthroughを主宰。同名のレギュラーパーティーをはじめ、様々なイベントでジャンルレスなDJプレイを展開。ヒップホップの枠を超え、幅広い層から支持を受ける。
アンダーグラウンドシーンにも精通するDJ JIN氏に、注目のアーティストを紹介していただいた。
DJ JIN氏がリスペクトしているビートメイカーとは?
--本日はよろしくお願いします。さっそくですが、JINさんが注目しているアーティストについて、話をお聞かせください。
JIN:今回はビートメイカー中心のセレクトですね。わたくしがリスペクトしている、アンダーグラウンドだけど、その筋では大物な方も含まれるセレクションでございます。
--それは楽しみです。レコードもたくさん用意してくださいまして。
JIN:あれこれレコードを選んだりして、楽しかったですよ。
--ありがとうございます。それではよろしくお願いします。
JIN:最初はね、ちょっとお仲間系なんですけど、YASU-PACINOというビートメイカー。昔からのDJ仲間で、YASU-PACINOという男がいまして。前に池袋のBedってクラブで1990年代の終わりぐらいにやってたレアグルーヴ系の『Essence』というイベントがあって、そこのDJで、イベントのオーガナイズもやっていた男で。レアグルーヴとかソウル、ジャズ系が凄く好きで、そういうルーツがありつつも、ヒップホップも好きで。その彼が、本業の関係で九州とか沖縄の方にいるんだけど、本業をやりながらHoney Recordsっていう自主レーベルを主宰して、自分のビートをアナログレコードでリリースしているという、見上げた男ですね。
JIN:曲のタイプとしては、ちょっとジャマイカンミュージックが入ったようなフューチャービートっていうか。ダビーな感じで、音の隙間がめちゃくちゃ多いタイプ。音数が少ないけど、そのシンプルなところで最大限のグルーヴを出すみたいな。だからビートとかも、流行りのオフビートっぽい、ちょっとズレてるタイミングで打ち込んでいて。あと、音が良いです。特に7インチが。迫りくるような音でレコードにカッティングされてるっていうか。
--アナログ派のJINさんにとって、音の良さは重要なポイントですよね。
JIN:で、いわゆるビートメイク・シーンの中の、東京の超大物、BUDAMUNKって奴がいて。
--存じております。
JIN:BUDAMUNKのニュアンスとも、ちょっと近いっていうか。そういうグルーヴも感じさせます。で、YASU-PACINOの曲にBUDAMUNKが参加してるものもあって。なんかそういうビート好きな連中が共鳴して、さらに良い作品を作り上げてくみたいな。
--それは聴いてみたいですね。
JIN:ということで、まずはヤスパチですね。頑張ってる男。リスペクト!
JIN:続いては、先日『GARAGE&JOHNNY CASH』という力作を出したDJ Juco。西東京のヒップホップグループ、FullmemberのDJでありプロデューサー、DJ Jucoです。Jucoは、オリジナリティ溢れる良いビートを昔から作ってますね。リスペクト!
--Fullmember、良いですよね。我が家にも彼等のレコードが何枚かあります。
JIN:ヤスパチもそうだけど、Jucoは音楽をライフワークとして、コツコツとしっかり良いものを制作してリリースしているという、その姿勢ですよね。『GARAGE&JOHNNY CASH』も凄く良かったし。Jucoはね、サンプリングのあのヒップホップの感じが好きなんだけど、ちょっと民族系、もしくはアフリカ系っぽいエスニック感が独特のセンスでビートに入ってくる。それがほんと、唯一無二のスタイルで。Jucoの作品を聴くときは、いつもワクワクします。
--大絶賛ですね。
JIN:Fullmemberが2011年に出したアルバム『Talk To Her』に入ってるJucoプロデュースの“Out of Scheme feat. 弗猫建物”っていう曲が、Jucoビーツ全開バリバリ最高みたいな曲で、日本語ラップのDJセットをやる時は絶対にかけます。
--相当お気に入りなんですね。
JIN:あと、なんだっけな? Jucoに関して話すことがあったんだけど……あ、思い出した! Jucoが『GARAGE&JOHNNY CASH』っていうアルバムを出すにあたって、FullmemberのWATAが、その援護射撃としてツイッターで漫画を上げていて、そのタイトルが『1ヶ月後にアルバムを出すジュコ』(笑)
--(笑)
JIN:『100日後に死ぬワニ』のパクリです(笑)。これが、凄く俺の好きなジワジワくるヒップホップ漫画で。でも、途中でWATAが「やめます」って言ったの。やっぱり漫画を描くのが大変みたいで。それで俺が「やめないでくれ〜、あれ好きだったのに〜」って言って(笑)。そしたらヒップホップ界隈の連中が「あれ面白かったのに〜」みたいになって、結局再開してくれたの(笑)。『1ヶ月後にアルバムを出すジュコ』もチェックしてください!
「1ヶ月後にアルバムを出すジュコ」
1日目 pic.twitter.com/z5rpDpvhkB— wata(Fullmember) (@MCWakaWATA) March 25, 2020
--作品は自分達でリリースしているんですか?
JIN:そうそう、自主。頭が下がるね。リスペクト!
DJ JIN氏がリスペクトしているビートメイカー以外のアーティストとは?
JIN:じゃあ、ちょっと中盤戦ということで、ビートメイカーじゃないアーティストを紹介したいと思います。超大物です。ドラマーの石若駿。
--おおっ!
JIN:今や押しも押されもせぬトップドラマーのひとりですよね。まぁ、ジャズから出てきて。もう、大活躍しているのも頷ける才能といいますか。
--ジャンルを跨いで活躍されてますよね。
JIN:改めて、わたくしDJ JINからもワンプッシュさせてほしいんですけど。元々、石若くんとの出会いがあって。随分前に、渋谷The Room(※1)でPharoah Sanders(※2)の息子のTomoki Sandersのライブがあったんですよ。
(※1)The Room:KYOTO JAZZ MASSIVEの沖野修也氏がプロデュースする渋谷の老舗クラブ。DJ JIN氏主宰の『breakthrough』は、毎月第一金曜日のレギュラーパーティー。
(※2)Pharoah Sanders(ファラオ・サンダース):ジャズ界の超大物サックスプレイヤー。ジャズファンのみならず、世界中のレアグルーヴ愛好家から愛されるクラシックを数多く生み出した正真正銘のレジェンド。
JIN:トモキとは馴染みで。その時、トモキから「JINさん、クラブプレイをやってくれませんか?」みたいに言われたので、レコードを用意して行って。で、The Roomに着いたら、ドラマーの石若駿くんがいたの。俺はその時、彼のことを存じ上げてなくて。その日は石若駿くんのドラムとトモキのサックスのセッションライブということで。
--興味深いセッションですね。
JIN:で、石若くんと挨拶して、ひとしきり話をして。それで、いざ本番が始まりましたと。そしたら石若くんのドラムが凄くて。呆気にとられたというか。もう、ドラムからメロディーが聴こえてくるみたいな。「こいつはハンパないな」って。
--石若さんのドラム、最高ですよね。
JIN:それで、ふたりのセッションが終わりって時に、トモキが「JINさんも入りましょうよ」って。
--おおっ!
JIN:「クラブプレイでお願いします」って言われたけど、そんなこともあるかと思って、スクラッチ用のレコードもちょっと用意しておいたので「じゃあ、やるか」って言って、サックス、ドラム、ターンテーブルっていうセッションをやったっていう。
--とんでもないセッションですね!
JIN:それから注目し続けてます。その石若駿が参加した日本のヒップホップ作品、KID FRESINOの“Coincidence”。
JIN:この曲、クレジットを見ないで聴いて「うおー、ぶっ飛んでるな」と思ってクレジットを見たら、ドラムが石若駿。「なるほど」みたいな(笑)
JIN:次はですね、世界にも通じている男。sauce81というアーティスト。ビートメイキングもできながら、マルチ・インストゥルメンタリストで。いろいろな楽器を演奏してビートを作っていくみたいな。才能のある男ですね。
--多才な方なんですね。
JIN:別名義でも作品を出してたりして、よりフューチャービートの打ち込みっぽい作品を出した時は、N’gaho Ta’quia(ンガホ・タキーア)っていう名義で。ジャケはTOKIOくん(※3)ですね。俺のミックスCD(DJ JIN×Jazzy Sport『the MIX』)のジャケもやってくれた。
(※3)TOKIO AOYAMA:ワールドワイドで活躍するアーティスト。これまでに数多くのジャッケトを手掛けている。
--TOKIOさんの作品は、ひと目見ただけでわかりますよね。
JIN:そうそうそう。で、sauce81はジャズ、ファンク、ソウルにルーツがありながら、今のカッティングエッジなビートも貪欲に吸収していくみたいな感じで。めちゃくちゃクオリティーが高いです。びっくりしました。しかも、歌も歌える。
--歌まで!
JIN:それで、sauce81名義でブギーテイストの曲があるんだけど、その曲をイギリスのフューチャービートシーンでも名門のひとつと言えるEglo Recordsから出してます。超最先端ビートの巨匠みたいなFLOATING POINTSが主宰者のひとりであるレーベルで。そこからレコードを出しているということは、世界に彼のグルーヴが通用しているという証拠なのです。
--FLOATING POINTSのレーベルから作品を出せるなんて、凄いですね。
JIN:ジャジスポ(※4)周りとかも繋がってたりとか。grooveman Spotと一緒にやったり。『breakthrough』でも、Live & DJセットみたなことをやってもらったり。才能のある人と仲良くできて嬉しいです。リスペクト!
(※4)ジャジスポ:東京、盛岡、京都に構えるレコードショップを拠点に、レーベル兼プロダクションとして活動するJazzy Sportの愛称。breakthroughのMasaya Fantasista氏とLADI氏はJazzy Sport、FREEDOM CHICKEN氏はJazzy Sport Brooklynの所属アーティスト。
JIN:次もですね、この界隈では超大物です。Olive Oilという男ですね。
JIN:福岡を拠点に活動しているビートメイカー、プロデューサーなんですけども、もう、Olive Oilの作品は最高です。ほんと素晴らしいクオリティー、グルーヴ感。サンプリングのヒップホップのあの感じを、ちゃんと今の音の響きでしっかり作ってくるっていう。好きな作品も多いですね。
--私もOlive Oilさんのレコードを所有してますよ。
JIN:とりあえず、パッと自分のレコード棚から抜いてきたあたりだと、5lackと組んだ『- 5O – EP』。この中の“愛しの福岡”とか、ヴァイブラフォンのジャズをうまいこと使って、テンポの速い元ネタから入っていって、テンポダウンさせて、首を振らすようなヒップホップ・ビートに変えていくみたいな展開で。5lackのラップも間違いないし。
--Olive Oilさんと5lackさんだったら間違いないでしょうね。
JIN:で、こっちは神奈川県の藤沢を拠点に活動するBLAHRMYっていうヒップホップ・ユニットのメンバーのMiles WordっていうラッパーとOlive Oilが組んでU_Know名義で出した『BELL』。これも最高ですね。“Free Jazzz”というタイトルの曲があるように、ジャズのエッジの効いたところを上手にすくい上げるというかね。あと“Stylee”。これが一番かけてる。ロービートなヒップホップのむちゃくちゃ首を振れる感じの曲。
--こちらも大絶賛ですね。
JIN:このOlive OilとMiles Wordのアルバム、ジャケが良いじゃないですか。これ、Olive Oilの兄弟のPOPYOILが手掛けていて。
--そうなんですか。
JIN:POPYOILくんは、実はRHYMESTERの“The Choice Is Yours”のPVをちょっと手伝ってもらってます。
--なんと! 兄弟そろって素晴らしい才能をお持ちなんですね。
JIN:そういう繋がりがあって。あと、この作品にスクラッチで参加しているDJ BUNTAも最高です。バトル DJの大会『DMC』に、未だにアナログレコードで臨んでいる見上げた男で、しかもスキル、センスもバッチリ。あと、BUNTAくんはツイッターでアナログレコードのルーティーンとかをたびたび上げてるんだけど、それがまた良くて。このDJはハンパないと思います。
--チェックさせていただきます。
JIN:あと、「Mix & Mastering by NOAH」って書いてありますけど、これもまたいいポイントをついてまして。「NOAHか!」って思いましたね。NOAHっていうのは大阪を拠点に活動しているビートメイカー、プロデューサーで。NOAHくんが昔からいいんですよ。Wonderful Noiseっていう関西のフューチャービート系のレーベルから作品を出していて。これがまた素晴らしい。で、「NOAHっていいなぁ」と思ってたら、昔から関西で一緒にDJとかやってた奴だった(笑)。
--身近な方でしたか(笑)。
JIN:あとから気づいて(笑)。NOAHリスペクト!
--本日、何回「リスペクト!」って叫んだんでしょうね(笑)。
JIN:最後にNOAH絡みで。NOAHはやっぱヤベーなって思ったのが、関西にソウル系のTAMMI KOOLっていう、すげえ歌えるシンガーがいて。その彼女がソロアルバムをT.A.M.M.I.名義で出していて。もう、フューチャーソウル全開。いろんな最先端のものを聴いてる俺からしても素晴らしい作品だなぁと唸らされた作品なんだけど、「produced by NOAH」ってクレジットされていて。「またNOAHか!」と思わされました。NOAHリスペクト!
--皆さんをリスペクトしていることが、よくわかりました(笑)
JIN:といった感じですかね。まぁ、自分はやっぱ、レコードを中心にチェックしてるから、「出せる人はレコードで出してください」という願望で終わります。
--JINさんご自身の最近の活動はいかがですか?
JIN:まぁ、コロナだからね。コロナっちゃってるから。ライブ、DJは少なめで。でも、DJの現場は少しずつ復活してきているので、ツイッターなんかで情報を出していけたらなぁ、と考えてるんだけど。『breakthrough』もバースタイルみたいな感じで始めたりとか。あとは、東京ではやってないんだけど、自分のDJミックスショウがチェックできるレギュラーFMラジオ番組『Joint & Jam』が全国24局ネットでやってるんで、聴いてもらいたいなと。
--『breakthrough』、遊びに行きたいですよ。
JIN:やっぱ、現場はいいよね。
--では最後に、最近気に入っている国内アーティストのレコードを教えてください。
JIN:新譜で?
--新譜でも旧譜でも構いません。いわゆる和モノのレコードでも。
JIN:和モノか・・・。あっ、真心ブラザーズの“Endless Summer Nude”。『Joint & Jam』で“Endless Summer Nude”をかけようと思ってるんだけど、全然かけられない(笑)。いつか、どこかのタイミングでかけたいと思ってるんだけど。
JIN:あとTHE CARDIGANSの“Carnival”もいつかかけたい。海外のグループだけど(笑)。
--いつか “Endless Summer Nude”と“Carnival”が『Joint & Jam』でかかる日が来ることを楽しみにしております(※5)。本日はありがとうございました。
(※5)後日、DJ JIN氏から「“Endless Summer Nude”、この前ついに『Joint & Jam』でかけちゃいました(笑)」というメールが届いた。
アフタートーク
(左から、PAZZ氏、DJ JIN氏)
取材場所としてご協力いただいたのは、7月21日に公開された松田知大氏(WRENCH / té)のインタビューの際にもお世話になった千駄ヶ谷GOTEN。アンダーグラウンドシーンで活躍するドラマーのPAZZ氏(DOOM / ex.GASTUNK)が経営するラーメン店である。
今回、ロック界のレジェンドと人気DJの貴重なツーショットが実現したのは、JINさんがプライベートで何度もGOTENに訪れているから。
インタビューを終え、往年のプロレスや格闘技の話題でひとしきり盛り上がった後に、JINさんが〆に選んだのはタイ式ラーメン。トムヤムスープと豚骨スープがブレンドされたJINさんのお気に入りの一杯を、皆さんも是非。
千駄ヶ谷GOTEN
東京都渋谷区千駄ヶ谷5-15-8
03-3350-4818
https://www.facebook.com/ramengoten/
DOOM/Still Can’t The Dead
アーティスト情報
RHYMESTER
2019年に開催された『KING OF STAGE VOL. 14 47都道府県TOUR 2019』の映像作品が、2020年9月30日にリリース決定!
RHYMESTER結成30周年記念ツアー Live Blu-ray / DVD(2枚組) 『KING OF STAGE VOL. 14 全国47都道府県TOUR 2019』
発売日:2020年9月30日
Blu-ray 2枚組:VIXL-323~4 ¥5,800+税
DVD 2枚組:VIBL-981~2 ¥5,000+税
Live Blu-ray / DVD(2枚組)結成30周年記念ツアー『KING OF STAGE VOL. 14 47都道府県TOUR 2019』
RHYMESTER official website
https://www.rhymester.jp/
RHYMESTER/Deejay Deejay
DJ JIN
DJ JIN official Twitter:@_DJ_JIN_
(Interview, Text & Photo by 五辺宏明)