【連載】オ客ハ読ムナ。/第11回

<毎週土曜日連載>
奥田民生シンドローム
知っている人はほとんどいてないと思いますが
「奥田民生シンドローム」というものがある。
そりゃ知ってるはずもない。
僕が考えた言葉だから。
今日は「ある意味で邦ロック界に奥田民生さんが悪影響を与えたのではないか?」
という、たぶん僕しか唱えていないであろう持論を書いてみたい。
「奥田民生の功罪」(←おおげさ)
について、この場を借りて語ってみたい。
ちなみに僕はずっと奥田民生さんのファンではある。

はじめてバンドでコピーし曲が「ユニコーン」の「与える男」だったというぐらいファンである。
だから民生さんに対しての悪意は一切ない。
リスペクトしかない。
そこだけは誤解なきように。
さあ、お客さんはここで退出を。
オ客ハ読ムナ。
▼奥田民生さんのパブリックイメージ
調べてみたら民生さんもう56歳。
もちろん今でも第一線で活躍中のベテランミュージシャンである。
でも、若い子は「奥田民生?名前しか知らない…」なんて人もいるかもしれない。
なので先に民生さんの略歴を紹介
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
1987年バンドブームの終わり頃に「ユニコーン」のボーカリストとしてデビュー。
初期はアイドル的な人気もあるバンドでしたが、当時としては異色の「サラリーマンの単身赴任」を歌った「大迷惑」をシングルでリリース。
その時期ぐらいから服装や髪型なども着飾らなくなり、バンドブーム期に活動していたバンドのなかでも独特のポジションを確立していく。
1993年に解散。その後約1年間の充電期間を経て、1994年からソロ活動を開始。
ソロ活動の傍ら「Puffy」や「木村カエラ」のプロデュースや、井上陽水とのユニット「井上陽水奥田民生」をはじめとした様々なミュージシャンとのコラボレーションなどを経て「ユニコーン」も2009年に再結成し、多方面で活動している。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
みたいな。
実際の人柄はお会いしたこともないので知らないのですがインタビューなどで
「休みたい」「がんばりたくない」などとずっと連呼していた時期のせいか(笑)
一般的な、民生さんに対してのイメージは
・マイペース
・格好つけない自然体
・ダラダラしてる
みたいなものが多いかと思います。
それでいて、民生さんがソロ活動をはじめた30歳の頃などは、特に同世代や歳下達から
「あんな風に生きたい」
「あんな風な大人になりたい」
と、そのスタンスが、かなりの支持を受けていた印象があります。
要するに
「カッコつけてないところが、カッコイイ!」
という、男の子が一番 憧れるやつですね。
僕もあの「カッコつけない感じ」には若い頃すごく憧れていました。
▼「カッコつける系」と「カッコつけない系」
さてさて。
もったいぶる意味もないので、まず結論から先に書いておきます。
何を指して「奥田民生さんの功罪」としているのか?
ある時期に、奥田民生さんのダラダラ路線が世間一般に受け入れられたことにより
「カッコつけない系」
という新しいジャンルが生まれてしまったこと。
「カッコつけない系」が確立してしまったことにより
「カッコつける系」と「カッコつけない系」の2極化が進んでしまったんです。
元々、ロックバンドというのは
「モテたい」
「人気者になりたい」
「自己表現をしたい」
という、思春期をこじらせた(笑)若者の自己顕示欲を爆発させるためにはじめるものでした。
要するに「カッコつけたくて」はじめるものだったと思うのです。
それが「カッコつけない系」が生まれてしまったことにより
後続の人間がバンドをやるうえで、無意識に「カッコつけない系」を選択してはじめてしまうと
「カッコつけなければ成立しないものを、カッコつけないで行う」
というパラドックスというか、二重構造というか
なんともややこしい、こじらせた感じといいますか(笑)
そんな、こじらせバンドマンを生み出してしまったと思うんですね。
これが僕の考える彼の功罪。
例えば
「オレはアイドルや芸能人になりたいわけじゃない!!音楽だけを純粋にやりたいんだ!!」
なんて考えの人からすると、考えうる最上級のお手本になる人が出現してしまったわけです。
(もちろん実際に奥田民生さんがダラダラしてるはずはないんですけどね。
ダラダラしてる人がコンスタントにCDをリリースしたり、色んな人をプロデュースしたりできるはずがないので)
たとえ奥田民生さんからの音楽的な影響はうっすらしか受けていないとしても
活動のスタンスという意味では、完全に「奥田民生チルドレン」に分類されるバンドは、僕的には2000年代以降かなりの数がいる印象です。
今、活躍してるバンドに関してはもう孫世代、ひ孫世代だと思うので、その影響は本人たちの自覚、無自覚にかかわらずですが。
▼イレギュラーな「カッコつけない系」は演者にとっては麻薬
そもそも、この「カッコつけない系」というのは、ステージにあがるうえで、どう考えてもイレギュラーなんです。
ステージでライト浴びて、表現するうえで本来は
演出もいるし
見た目も気にしないとダメだし
カッコもつけないといけないし
ステージパフォーマンスというものと向き合わないとダメなわけで。
これは、このやらなければいけない「当たり前」をすっ飛ばして、
普段着の自然体でステージに上がるのを「良し」としてしまう
けっこう怖い考え方な気がしてまして。
…もし、それで成立するなら演者にとっては、こんなに楽なことはない。
ある意味でこれは「麻薬」みたいなもんじゃないですか。
「あくまで普段気で自然体でふるまうのはイレギュラーである」と
この部分に対して無自覚なアマチュアバンドが、きっと民生さんの成功以降、増えちゃった。
ただ、そんなバンドもデビューして実際に人気が出てくると
その部分に無自覚でいるわけにもいかないわけで
当然、プロ意識も出ててきます。
だから今きちんと活躍してて、それに無自覚なバンドなんてきっといないんですけどね。
これは、あくまで200人キャパぐらいのライブハウスでくすぶってるバンドのお話ではあります。
▼「ヴィジュアル系」あってこそ成立する「普段着系」
そもそも民生さんだって、デビュー当時からダラダラ系の活動スタンスだったわけではないんです。
1987年のバンドブームの終わりかけの頃に、ユニコーンでデビューして
最初の頃は、髪をそめて、ツンツンに立てて、
それなりに女の子からキャーキャー言われる可愛いキャラで
カッコつけてやってたわけです。
それが、アイドル扱いされるのに嫌気がさしたのか
極端に着飾らなくなり
長髪で無精ひげを生やしてみたり
さしずめ、後期ビートルズのメンバーのようなルックスになっていきます。
これが結果的に周りの着飾ってる派手なバンドとの差別化として働いたんだと思うんですね。
その後も
●ヴィジュアル系と呼ばれるバンド
●ビーイング系と呼ばれていたバンド
などなど
どちらかと言うと「作りこんだルックスのバンド」がメインカルチャーとして当時はドーンと売れてました。
その流れがあったおかげで、対になるように民生さんのスタンスがメインに対してのカウンターカルチャーとしてうまく機能していたんです。
「ヴィジュアル系」というのあったからこそ、奥田民生さんのカッコつけない様子が「普段着系」として成立した。
「ヴィジュアル系」あってこその「普段着系」。
この辺りは本人さんが自覚してやっていたのか、無自覚にやっていたのかは知るよしもありませんが。
※「普段着系」という言葉も僕が考えた言葉なので一般的にはありません。
だから時代の流れなんかも味方してたと思うし
何より民生さんの圧倒的なソングライティング能力だったり
色々な要素が重なって、民生さんのスタンスは市民権を得てたわけです。
そもそもこの人、ダラダラしてる風なだけで、ちゃんとコンスタントに活動してますしね。
全然 ダラダラしてないし。
ですから、この連載の3回目
「バンドマン、ピュアすぎる説」
で、ミュージシャンはインタビュー記事を真に受けすぎるな!と書きましたけど、奥田民生さんのインタビュー記事での受け答えを真に受けて
「ダラダラとカッコつけないのが良いんだ!」
と勘違いしたアマチュアバンドをたくさん生み出まれてしまった気がするんです。
そんな功罪っていうのは、ちょっとあるんじゃないかな?なんて思っています。
そもそも
ダラダラ、マイペースに普段着でやるのがカッコいいんじゃないんです。
それは奥田民生だからカッコいいんです。
中途半端に表面的に真似しても、ぜんぜんカッコよくないぞ!と。
あれはあくまでイレギュラーだから!と。
…ああ、なんか書いてて20代の頃の勘違いしてた自分に説教してるみたいな内容になってしまった。
だから、奥田民生シンドロームにおかされて、40過ぎても中途半端なスタンスでダラダラとバンドをやっている
僕みたいな人間を生み出した功罪はデカいぞ!と。
…って、最後のオチは自分のことかい!!と
今週も若干とっ散らかった内容で失礼しました。
そういえば
「奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール」という漫画がありましたよね。
映画は未見なんですが、民生さんが好きでサブカルをこじらせて生きてきた僕ぐらいの世代が読むと重すぎて死にたくなるような内容でした。
他の世代の人が読むと、ピンとこない極端な内容に思われるかもですが、僕らぐらいの世代の一部にとっては
いや、本当に当時の民生さんの影響力ってこんな感じなんです!
…っていう、良いサンプルではあるかも。
万人受けする漫画ではないかもですが、機会があればこちらもぜひ読んでみてください。
では、また来週。
The denkibran(Vo./Gt.)&南堀江kanve(ブッカー)/倉坂直樹
こちらもチェック