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【連載】ファイアーループ足立のライブハウスなんかやめてやる!!/第34回

<毎週日曜日連載>




PA講座・第一回目かつ最終章

こんにちは!ファイアーループの足立です。ここ3日くらいスタッフ松川(現・照明と受付とその他色々)にPAを教えていました。ツイッターで「店長ヒマです」と書いたのは嘘です。忙しい!

さて現在、FireloopにはPA(音響さん)やれる人は僕と野中だけなのですが、野中はこれからまた他の現場でもばりばりPAやってほしいし、僕は僕でPA以外にもどんどん忙しくなっていきたい。僕がPAやってて野中が東京に行ってて、突然僕がぽっくり行ったらみんな困るじゃないですか。なので、「FireloopでいちばんPAに近い女」である松川が抜擢されたのでした。彼女は何をやってもなぜか僕よりうまいので、すぐ登板する予定です。みなさま楽しみにしていてください。

僕は喋るのは得意ではないですが人にものを教えるのは決して苦手なわけではないのです。しかし短時間で「PAやれる人」に育てるにはどうやって教えたらいいか、今回僕なりに悩みました。松川を指名する時に「いけるいける」と言いましたが、嘘です。PAはすごく難しいし、向き不向きもあると思う。で、まずはどういった心構えがPAに必要なのか考えてみました。

それはイライラしないことです。ご機嫌であることです。人には人の事情があるのです。それを想像して、例え無茶を言われたとしてもとっさにイライラしない。これ大事です。これに伴って、コミュニケーション能力が必須だと思います。これは別に「コミュ力たっかい」みたいに飲み会ですぐ人気者になっちゃうような特殊能力は必要としません。必要なのは人の思ってること、困ってることをちゃんと引き出したり、汲み取る能力です。

松川にさんざんいろいろ教えたあと、まとめに僕が「PAにとっていちばん必要な能力は、、、」と言いかけたところで野中(現メインPA)も混ざってきてニヤニヤしてきたので、もういっかい息を吸って(僕は喋りだすと息を吸わないので呼吸困難になる)、「バンド語をPA語に翻訳する能力です」と言いました。金言です。バンドはミュージシャンでありアーティストであって、エンジニアではないのです。共通言語らしき伝達手段で会話するため簡単に思えますが、これがなかなか難しい。バンドの言ってること、求めていることをPA語に変換し、エンジニアとして音響機器に適用する能力が必要だということです。

僕のPA方法論はいちおう社外秘ということにはしていますが、今回は特別に一個だけ例を挙げてみましょう。例えば、バンドが「もっとキックを固くしてほしい」と言ったとします。PAは何をするべきでしょうか。

「固いキック」といって真っ先に思いつくのが「イコライザーで高音を上げた音」だと思います。逆に「ボワーン」という成分をカットしても固い音になります。他にもいろいろあります。コンプでつぶしてアタックタイムをしっかり取った音。これも「踏んだ時のアタックが強調された」固い音だといえます。「ドーン」という音にゲートを掛けて、伸びの部分である「ーン」を消し去った音、これは「ドッ」という音になりますから固い”印象”ですね。まだまだあります。カチカチした早い音を収音するのが得意な「バウンダリーマイク」というやつをキックの中に仕込んでその音を足してみるとか、キックに立てているマイクを「固い音のマイク」に交換してしまうとか、キックのチューニングをベロベロにするとか毛布を増やすとか、ビーターを硬い素材の物に変えるとかそもそも固い音で踏んでもらうとか。

ここでちょっと注意しないといけないのが、上で挙げた手段が全て「キックを固くしてほしい」というバンド語を言葉通り受け取って「キックをどうこう処理する」に留まっている点です。例えば、欲しいキックの「固さ」を覆い隠しているベースやギター、ボーカルの音を処理するのが最適解という場合も往々にしてあるんです。だから、「キックを固くして欲しい」というバンドのひとつの希望だけ取っても無数に選択肢があるということ。絶望的ですね!選べるのはせいぜい同時に2、3個です。さあ、どうすればいいと思いますか?

答えは、なんか自分の「ええんちゃうこれ」ってのをやって「こんな感じにしてみたけど、どう?」とバンドに問うことです。上で無数に選択肢があると書きましたが、どこまでスバラシイ音を作っても所詮は「PAのオススメ」でしかありません。本日のシェフのお勧めメニューみたいなもんです。口に合わない人はいます。でもシェフは絶対「あっ今日のサバめっちゃおいしいからこれメインでいくか!」みたいなこと考えてると思うんですよね。「シェフのオススメ」を選ぶ人に偏食家はいないでしょう。話がそれましたが、この「PAのオススメ」がどれくらい一般的にイケてるかはさておき、それが本当の意味でイケてるかどうかはバンド、つまりアーティストにしか分からないのです。

バンドは演奏しやすい音環境のほうが良い演奏をするし、バンドは思った音(あるいはそれ以上)で自分たちの音楽を聴いてほしい。それに向かってPAができることは、バンドがやっている音楽とか人とか持ってる楽器とか機材とか顔とかその他いろいろ見て「うーん!あなたにオススメなのはこんなのカナ!」と提案する。バンドがそれを気に入ったら大正解。これだけ。

はー?って思われるかもしれませんが、仲のいい友達と喋るときにも自然と同じことをしてるじゃないですか。「コイツはこういう話を面白がる」みたいなね。アニメに全く興味の無い人に一生懸命アニメの話をしてもなかなかイイ感じにならない。無意識でそれを嗅ぎ分けて、その人が面白がるような話をしたり、聞いて面白がったり、これが「コミュニケーション能力」です。勝手に「お前らの音楽はこうです」なんてやって美味しい音楽になるはずがない。だから「こんな感じでどう?俺はイケてると思ってるで!」「あっそんな感じじゃなくて(うまく言えないけど)キックはガチ!じゃなくてグッ!みたいな!」「じゃあこんなんもあるけど!」「あーこれこれ!イイ!」ほら、めっちゃ楽しそうでしょ!ぜったい良いライブになる気がしてきた!

しかし残念ながら僕はオジサンなので、若いバンドマンから(上で書いた)「あっそんな感じではなくて」のくだり、なかなか言ってもらえません。これもオジサンが若い人と「単に会話するとき」に似ています。オジサンはそれも踏まえて若者とお話しするべきなんです。ただしそこに「媚び」があるとすぐバレます。若者に媚びる中年のオジサン、ダサいですね!こうならないための簡単な方法は、人に対して敬意を持つことです。

PAって、実はこんな仕事なんです。あとはたくさんアイデアを持っておいて「こんなんどう」「こんなんもあるけど」とかやれればやれるほど良い仕事になります。機械の使い方なんて必要に迫られて覚えるくらいでちょうどいいのかもしれない。機械の使い方を知るとそれキッカケに色々アイデアや技が増えていくだけなんです。やっぱり簡単で難しいのがPAです。僕はもう20年もやってますが、いまだに新たな発見があるし、分からないことだらけなので全く飽きません。楽しく仕事させてもらってます。という自慢でした。また長いですね!すみません、また来週!

ライブハウス『Fireloop』店長/足立 浩志

プロフィール

足立 浩志

大阪府大阪市のライブハウス

寺田町Fireloop』店長

Twitter:@adatinc

大阪にある、寺田町Fireloopという面白ライブハウスのオーナーで店長です。大喜利が大得意ですが、気の利いた答えを出すまでに1日かかります。

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