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【連載】ファイアーループ足立のライブハウスなんかやめてやる!!/第32回

<毎週日曜日連載>




たまたまうまくいった、は疑ってかかるべし

おはようございます。ファイアーループの足立です。

また最近、ドラムのチューニングに悩まされています。悩まされてるっていうか研究めっちゃしてます。チューニングというか、ドラムがまともにライブハウスで鳴る方法を「音響機材込みで、トータルで」研究しています。ここを読んでおられる皆様はお忘れかとも思うのですが、ぼく音響屋なんです。ドラムのチューニング、マジで難しい!もうなんていうか、宇宙だよ宇宙。それくらい奥が深くて、そして面白い。

ドラムセットというのは、とにかくチューニング命と言われます。ドラムをいじったことのない人に説明すると、一般的な「ドラム」ないし「ドラムセット」はなんかネジを締めて皮の部分の貼り具合をいろいろ変えられるようになってるんですね。これによって、音が高くなったり低くなったり、音が短くなったり伸びたり、いわゆる「鳴ってる」音になったり逆に「鳴ってない」音になったり(それがイケてる時も、もちろんある)、これにはとかにかく正解がありません。断言しておきますが正解が無いんです。ギターやベース、ピアノなどのドレミができる音階楽器には比較的「正解」とされるチューニングというものが提示されていますが、もうこれすら正解と言えるかどうかわからない。ギターの1弦だけちょっと高めにしたらなんかカッコいいと僕は思ってしまう。電子式のチューニングマシンが開発されて「ロックはそのせいで死んだ」なんて言う有名なロックスターがいるくらいですし、たいへん納得いく話でもあります。話が逸れました。今回はドラムのチューニングの話。

ドラムのチューニング、昔からほんっとうにたくさん「こうしたらイイ」っていう方法論を聞くんです。で、それらをぜんぶ机の上に並べると真逆のことを言ってるのもチラホラありますし、嘘も多いし、しかもそれが「ウマいと言われるプロドラマー」が言ってることだと地獄です。突然ヘンなのが流行ったりします。でも、ヘンなのっていうか実際に試してみてバッチリ納得いくならそれは「あなたにとって正解、のひとつ」なんです。もう難しく考えるのはやめましょう。適当でいいです。

でも、そう言うもののワタクシ、腐ってもプロですので「こうやったらイイよ」「正解はコレだよ」みたいな説を提案されるたびにぜんぶ試してきました。そしてその全部に共通して思うのは「結局のところ全部たまたまじゃねぇかコレ」。スネアの材質も大きさ(主に深さ)も違うし、皮の材質も違う。なにより会場の響きが違いますから、方法を完璧に守っても昨日のスタジオでどんなに完璧なスネアのチューニングをしてもそのままではまず通用しません。リハーサルの待ち時間に客席でチューニングしているケースをよく見ますが、もうはっきり言っちゃいましょう。無駄です。「微調整でコントロールが効く程度に、土台の準備をする」くらいに留めましょう。ステージに持って行ったらぜっっったいに音が違いますから。たまに僕が出す「絶対」はけっこう信用してもらっていいです。絶対に音は違います。

さて、僕も若いころにはリハーサル前、バンドが来る前の時間にさんざんドラムのチューニングをしていた時代がありました。触り慣れているドラムセットでも納得いくチューニングにたどり着くまでにすごい時間がかかります。ちゃんと客席のスピーカーからも音を出して、あーでもないこーでもないとネジをぐるぐる回してはドン、ぐるぐる回してはドンします。スマホとかでPA卓をリモートしながら、スペアナとか見ながら、時にはスタッフに叩いてもらったり、めちゃめちゃ頑張ってたんですよ!で、1時間とか2時間とか平気でかけて「これで完璧!かっこいい音が鳴ってるし、音の長さも問題ない。へんにEQやゲートで電気的な処理をしなくてもバッチリ!」それでリハーサルに臨むのです。どうですクソ真面目でしょう。でも、最近やってません。ぜんぜんやってません。ライブハウスに置いてるドラムセットのチューニング、ついに私は放棄しました。これはPAに対して情熱がなくなったとか寄る年波で体がシンドイとかでは断じてないです。理由がわかるでしょうか?

それは、頑張れば頑張るほどドラマーにチューニングを変えられた時にイラっとしてしまうからですよ!!

なにイラっとしてんだよ若造。ドラムを叩くのはドラマーなんだよ。叩く本人が好きなチューニングにしてるんだからそれが正解なんだ。それで楽しく音楽やろうぜ。困るならそれをPAテクノロジー駆使してエラーをなくすのがPAの仕事。「わかってないなぁ折角イイ音にチューニングしてやってるのに」なんてガッカリするなんて、ほんとうに未熟だった。すみません。でもね、ドラマーみんながドラムのチューニングするわけじゃないんです。ドラマーによってはちょっと叩いてみて「あ、これはこれでイイね」って全くいじらない人もたくさんいますし、良い悪い気にしないででそのままやっちゃう人もたくさんいます。ドラムの生音は客席に届く音に関係ないからヘタに触らない方が吉、出音に関しては基本おまかせって思ってる上手いドラマー(しかもあながち間違っていない)は意外と多いし、なんでもいいんです。

だから、僕(町のライブハウスの、音響の人)が持っておくべきスキルはカッコイイドラムサウンドをプロデュースすることではなく、すばやくいつもの状態に戻せることだと考えています。めちゃめちゃ高い、パンッパンのチューニングを好むドラマーも世の中にはいますからね。で、次のバンドが上でいう「チューニングにそんなにコダワリのない人」「ヘタに触らない方がいいと思っている人」だとさすがにヘンテコなことになる。リハーサルとぜんぜん違うことになってしまう。だから僕は、ドラマーがチューニングをすんごい変えた時に限り転換中に初期状態にパパっと戻します。僕これ鬼のように早いんです。おはようございます。ドラムチューニングをデフォルトに戻すプロ・足立です。面倒なのであんまり叩いて確認しません。手の感触だけで「いつもの感じ」にして終わり。1分かからないです。

さて、タイトルにあるとおり今回は「たまたまうまくいった、はダメ」というお話をちょっとしたいと思います。ドラムのチューニングは特にですが、本当に世の中には「たまたまうまくいった」ことが多いです。たまたまうまくいった時、みなさんはどうしますか?真面目な人はこうです。「こうやったら上手くいった。だから次から同じことをしよう」これ本当にドツボに入りますから気を付けてください。ジャズコーラスのBASSツマミをMAXにしたらすごいイイ音が出てみんなの評価も高かった。こんな時どうします?次からはBASSツマミをMAXにしてしまうでしょう。気持ちは本当にわかります。でもそれはあくまで「こうやったら上手くいったことがあった」という資料をひとつ持つにすぎません。これを重ねて重ねて、上手くいったケースをたくさん資料として持つことは本当に有用で、それが「経験豊かな人」として優れた結果を出しがちですが、そればっかりではやはり統計学の域を出ませんね。大事なのは「なぜ上手くいったのか」に興味をもつこと。

すると上手くいった理由を知りたくなります。上手くいった仕組みが知りたくなります。学者のようでなくてもいいですが、その部分にワクワクしながら向き合えば次に何か試すとき、凄いトラブルがあったとき、より強力な選択肢を選べて尚且つより強力な資料を追加で手に入れることができるということです。だいたい音楽だろうがビジネスだろうがなんだろうが資料を集めるっていうのはたくさん集めてハイ終わりではありません。資料を分析したり有効に活用するために集めるものですから、まずその仕組みに興味を持つというスタンスがしんどくもなく、楽しくて、良い結果に辿り着く最短距離なのです。

上手くいったときはあくまで「たまたま」だと思っておくとよいでしょう。でもイケてる資料をひとつ手に入れました。それを深く科学的に考察するもよし、真逆をやってみて真逆の効果になるのを確かめてもよし、そのうち自分の中の正解や軸も見えてきます。「こうやったら上手くいくよ」なんてネットの記事はアテにしないでください。あれも「その人の持ってる機材で、置かれてる環境で、たまたま上手くいった」という単なる資料に過ぎません。有名な人とか尊敬する人が言ってるとすぐブレてしまいますが、そういう人の発言ほど危険なもんはないのでみなさんも注意深くその資料を手に取ってみてください。

というわけで、このコラムのこともあんまり信用しないでくださいね。ではまた来週!

ライブハウス『Fireloop』店長/足立 浩志

プロフィール

足立 浩志

大阪府大阪市のライブハウス

寺田町Fireloop』店長

Twitter:@adatinc

大阪にある、寺田町Fireloopという面白ライブハウスのオーナーで店長です。大喜利が大得意ですが、気の利いた答えを出すまでに1日かかります。

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