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【連載】パーティ日和/第24回

<毎週土曜日連載>




ハシゴ酒友の会

酒は1人で飲んでも美味い。だけど気の合う仲間と飲むともっと美味い。
僕は得意げな顔でそう言いながら、夜な夜な仲間と落ち合っては繁華街へ消えていく小さな集団を形成していた。
みなさまは「ハシゴ酒」というのをやったことあるだろうか?これは一時ぼくが主催し東京ローカル界隈で暗躍していた「ハシゴ酒友の会」のある夜の顛末である。

北千住駅周辺、面白そうな飲み屋が何軒も存在している。僕たち「ハシゴ酒友の会」今夜は知っているようで意外と知らないややディープ東京、ここ北千住を攻める算段だ。パーティは3人。気心の知れた飲み仲間である。
実は僕も住んでいたことがあるのである程度の知識は持っていて、今回は安泰というか大きな事件はあるまい……くわばらくわばらおおこわい……とタカをくくっていたところなのであるが、今思えば集合場所にしていた一軒めの立ち飲み串揚げ屋を出たあたりから雲行きは怪しかった。

「北千住という庶民的な街だからこそあえて高級志向を攻めよう」ということで入った小ぎれいな一品料理屋、気の利いたメニュー、洒落た盛り付けに丁寧な仕事で酒が進む。お店の主人も気さくで馴染みやすく、これはいい店を引き当てたものだと一行は喜んだ。お値段もそんなに高くもなく、割としっかり食って飲んでしたのに1人¥5,000-ほどのお会計で済んでしまった。

これは困ったことになった。困ったことになったのである。一夜の流れを重視しクオリティの高いハシゴ酒を完成させるためには美味くて安くて雰囲気のいい店だけを回れば良いというものではない。良き店も悪き店も全て飲み込み、酸いも甘いも飲み尽くして初めて味わい深い一夜のハシゴ酒が完成するのだ。だからこそ店のチョイスは良い店だけでなく「ハズシ」が必要で、絶妙な「ハズシ」こそ全身全霊で味わい尽くさなければならない。まさに一期一会の精神。ハシゴ酒道ここにあり。

噛み砕いて言うと、「二軒めにしてもう満足してしまった」ということだ。もっと言うと「すこし冒険しても良い頃」に差し掛かってしまったところであり、なんなら三人とも「せっかくだから思いっきりいこう」と心の中で思っている、ということである。

酔いも回ってきており終電まではあと1刻半ほど。次の店が今夜の仕上がりを左右する。ここは慎重に決めなければなるまい。喧々諤々と論争のひとつも交わしつつえいやっと勇気を持った一歩を全員で踏み出せるかどうかが勝負の鍵だ。と思っていたらだいぶ酩酊し様子がおかしかった隊員2号が客引きに捕まっている。『おねえちゃんが出てくるお店は僕たちの主義に合わない……』とぼんやり思いつつ聞けば民謡酒場だということ。歌って飲んで安心の明朗会計、というのでまあ冷やかしにちょっと入りますかとついていった先が問題だったのである。

まず汚ねえ入り口でお出迎えしてくれたおばちゃんであるが、何故か僕らのテーブルに座ってくる。着席接客なんて聞いていないのでここは僕らの席だからおばちゃんはちゃんと立って働いてね、というとこれがあたしのお仕事なのよ、と言う。
まあまあ何飲みますかと言うのでじゃあなんかウイスキーを水割りで……と言うとトリスしかないと言い、それで良いというと水割りでなくロックで4つ、おばちゃんの分も出てくる。酔っててめんどくさいのでまあ一杯くらいええしおばちゃんとも楽しく遊んでやろうかと菩薩のような心持ちでいるとえらそうに「なんか歌って」と来た。ミュージシャンなんだから正太歌えよと隊員に押し付けられ何か覚えてないが一曲歌うとおばちゃんが「すごい上手ですねー」などといらんことを言い、いなし続けているとさっきの客引きの男が「お腹すいたでしょう」と炊飯器を開け、頼みもしないのに中からおでんを取り出した。

もう大事故である。

あまりの状況に頭の中が整理できなくなってきたのでもう帰ります、とお会計をお願いすると奇しくも1人¥5,000-。何代なんだろう一体。まっすぐな目で僕を見ながら「またお待ちしています」と真剣に言う客引きに恐怖さえ覚えながら逃げるようにお店を出たのだった。

それでもなかなかできる体験ではないよなと僕らはゲラゲラ笑いながらラーメン屋に乗り込んだ。
最後はラーメンでも食いながら瓶ビールで反省会という流れだったのだが、ここのラーメンがもうはちゃめちゃに不味い上に注文した味噌バターラーメンのバターはなんとバターではなくギトギトのマーガリン。もうおかしくて仕方ないのでひとしきり腹を抱えて笑い、ビールだけ一気に飲み干し殺す気かとカウンターのおっちゃんに言って店を出た。

というあまりにも楽しいハシゴ酒の夜だったのだが、仲間と別れてから缶ビール買って家路を歩いていると疲れがどっとやってきて、公園に腰掛け夜空を眺めていると猫が寄ってきた。彼は僕の周りをゆっくり回りながら「そんな日もあるよ」と言っていた。

ライブハウス『松山サロンキティ』店長/武花 正太

プロフィール

武花 正太

愛媛県松山市のライブハウス

松山サロンキティ』店長

Twitter:@take87syouta

音楽、アニメ、旅、鉄道、廃墟、階段など、引っ掛かりを覚えた物を節操なく取り込んだボーダーレスなライフスタイルは国内外を問わず広く呆れられている。

自身のバンド「MILDS」では作詞作曲、歌、ギター、ピアノを雰囲気でこなし、さまざまな現場でベースを弾く。

DJとしても活動しており、主な得物はなんとアニソンである。

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