【連載】パーティ日和/第16回

<毎週土曜日連載>
ライブハウスを待つ新しい時代について
北海道から沖縄まで5都市のライブハウスをつなぐ「マルチストリーミングライブ配信」というのを9月5日に開催した。
これはいわゆるライブサーキットのストリーミング配信版、というやつで主催はHi-STANDARDなど多数のアーティストのミュージックビデオを手がける映像作家・UGICHINさん。
参加ライブハウスは桜坂セントラル(沖縄)、心斎橋Pangea(大阪)、新宿LOFT(東京)、苫小牧ELLCUBE(北海道)、そして我々松山サロンキティ(愛媛)である。この中に私たち混ぜていただいて本当にいいんですか。と多少ビビりつつもコロナ禍で全くライブイベントが出来ない中で渡りに船だ、気合いを入れて参加させていただいた。
「GOODPLACE」はその後もさまざまなマルチストリーミング配信を行っているので是非チェックしてみてほしい。様々な土地の音楽を耕してきたライブハウスやアーティスト達の息吹を感じられると思う。
「GOOD PLACE」


ライブ配信、というのは感染予防する上で最も危険だと名指しで指摘され営業停止を余儀なくされたライブハウスの多くが飛びついたライブの代替品だ。我々サロンキティも動きは早く、4月5日には第1回のライブ配信を行い、その後も継続して何本もこなしクオリティ、効率共に磨き上げていった。その中で色々と分かってきたこともあるので今の所見を書いておきたい。
●ライブ配信はライブの代わりにはならない
いきなりで申し訳ないが、これは間違いない。ストリーミング用に圧縮された音をヘッドホンで聴いても生演奏の音とは全く異なるし、目の前に本人が居るリアリティ、視界に入ってくる照明や特効の高揚感、オーディエンスの歓声や笑顔、全てライブ配信には無い。だからライブの興奮は絶対に味わえない。
このことはライブ配信を始めてすぐに気がついた。
生演奏に拘ってきた我々ライブハウスがストリーマーの世界で戦うには、収益を上げるには高すぎる壁が立ちはだかっているのである。
●会場現地チケット売上+有料ライブ配信という可能性
このあと何ヶ月、何年かかるのか知らんけど感染症騒動も落ち着き、穏やかな日常が戻ってきてもライブハウス環境は元には戻らないのではないかと思っている。
多くの小箱の公表キャパは詰め込めば入る、実際入った、という程度の根拠で無理のある数字を謳っていて、どこかでこの数字を是正する必要があるだろう。
なぜならみんながパンデミック下で得た新しい常識は完全には元に戻らずぎゅうぎゅう詰めのライブ会場、という景色は姿を消すのでは無いか。そうなると採算を合わせる為に減ったキャパシティ分の収益をどこかで上げる必要が出てくる。そこでこの度我々が手に入れた有料ライブ配信、という武器が役に立つのでは無いだろうか。
しかしここで僕の暮らす地方都市のライブハウスには新たな問題が出てくる。有料ライブ配信で地方のお客さんも拾えるようになってしまったら「全国ツアー」の規模はどんどん縮小していくだろう。
人口が少なく元々採算の合いづらい田舎の会場から切り捨てられていくのではないだろうか。中には、ジャンル的に、ライブ配信は行わず足を使ってライブハウスに会いにいくぜ!みたいなアーティストも出てきてくれるとは思うがそればかり当てにしていては危険だろうと考えている。


●ストリーミング配信をどう使うか
そうすると我々地方の小箱ができることは何だろうか。
逆にストリーミング配信、という新たな武器を手に入れたことで地元のアーティストやストリーマーなどを巻き込んで独自のコンテンツを制作し全国に発信することが必要だろうと思う。
もうアーティストさんがライブしに来てくれるのを待つ時代は終わり、こちらからエンターテイメントをお届けする時代へ変わるのだ。
だからこそ今まで以上に地元アーティストとの結びつき、柔軟な企画力が必要になっていくだろう。僕としては望むところ、である。
つらつらと思うところを書いてみたがどうだろうか。そろそろ全国のライブハウススタッフやアーティスト、お客さん達とこの辺りのことをディスカッションしてみたいものだ。新たな発見を共有してより魅力的な業界にしていきたいものである。
ライブハウス『松山サロンキティ』店長/武花 正太
プロフィール

音楽、アニメ、旅、鉄道、廃墟、階段など、引っ掛かりを覚えた物を節操なく取り込んだボーダーレスなライフスタイルは国内外を問わず広く呆れられている。
自身のバンド「MILDS」では作詞作曲、歌、ギター、ピアノを雰囲気でこなし、さまざまな現場でベースを弾く。
DJとしても活動しており、主な得物はなんとアニソンである。