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【連載】ファイアーループ足立のライブハウスなんかやめてやる!!/第13回

<毎週日曜日連載>

ライブはもっと音がいいはず理論その2

おはようございます。ファイアーループの足立です。

前回、「オンマイクとオフマイク」というタイトルで書かせていただきましたが、要は「ライブはみんなが思ってるより音がいいんだよ、だからそこを信じて諦めずにいこう」というお話の一端でした。今回もそこについて掘っていこうと思います。

近年、音響機材が「安くて高性能」になっていったお陰で「ライブハウスは音が悪い」なんていう人が減ったのは嬉しいことです。昔を悪く言うわけではないんですが、2000年前後の音響機材はとっても高くて性能もあんまり良くなかった。一番はパワーアンプですね。当時、マトモにロックバンドのライブができるパワーアンプなんて1台何十万もしてたんです。少なくとも生のドラムセットよりデかい音でボーカルを出せないとライブ音楽は成り立たないんですが、それには僕の経験上、500ワット以上の出力が必要です。それより小さいと声が歪んだり割れたり、ハウリングしやすくなったりで大変なことになります。100ワットのスピーカーでバンドのライブをやろうと思ってる方は要注意!

ライブハウスの「耳が痛い」という現象は実は「音のデカさ」よりこの「パワー不足による歪みや割れ」が大きな原因です。昨今のライブハウスの音はデカくても耳が痛くなりにくいですね。とっても良い時代が来たものです。やっとこさライブハウスで「いい音」が聴けるようになってきて、「いい音で聴きたい音楽ファンは家じゃなくてライブハウスで音を浴びようぜ!」って胸を張って言える時代になって(戻って)きた矢先にこのコロナですよ。がっかりです!

しかしがっかりしてばかりでは仕方がないので、音響さんとしては「今のうちにコロナが落ち着く頃までにちゃんとライブハウスを盛り上げる準備をしておこうぜ」という気持ちです。当ブログは、音という角度から「ライブハウスで聴く音楽体験さいこう」という世界を目指すものです。

また前置きが長くなってしまいましたが、今回もまた「なぜライブハウスの方がレコーディングより有利なのか」についてお話ししましょう。前回は「一般的に5センチとか至近距離から楽器の音を収録するマイク」が、その他の楽器にとっての自然でリアルなオフマイク(離れたところから収録しているマイク)として機能しているというお話でした。それがなぜ聴衆にとって「良い音であるか」、音響屋にとって「届けるべき音であるか」は、演奏者が感じている音楽をそのまま同じ環境で聴衆に届けることが正義だから、という理屈でしたね。

ライブハウスというのはその構造上、ステージと客席はほぼ同じような環境です。防音壁で区切られているわけではありません。当ファイアーループはコロナの飛沫感染対策としてアクリル板をステージの前に立てていますが、みんなが思うほど「ステージで鳴っている音」と「客席で聴く音」を分離し、別物にするほどの力はありません。もちろん厳密にいえばスピーカーの向きも音の響きもステージと客席では違いますから「演奏しやすい音」と「聴いて気持ちのいい音」を意図的に調整しているのがライブハウスですが、それでもミュージシャンは客席でどんな音が鳴っているかを十分感じながら演奏しています。

レコーディングだと、演奏者はどんな環境で自分たちの音楽を聴いているか知ることができません。スマートフォンのスピーカーで聴いているのか、ヘッドホンやイヤホンで聴いているのか、大きなスピーカーで聴いているか、はたまたカーステレオで聴いているかわからないんです。音量もリスナーの自由。だからどう提供すべきかというと、レコーディングは基本的に「どんな環境で、どんな音量で聴いても大丈夫」という音を目指すしかなく、これがたいへん難しい上にロスであるということは想像がつくと思います。

ライブハウスでは、リスナーの「好きな音質」「好きな音量」といった選択肢は無くなるものの、それが真実の音であると信じて音楽を聴くことができるんです。これはたいへん大きな優位性です。その音楽は間違いなく「演者が感じている音楽」です。客席と演奏者が聴いている音楽は全く同じではありませんが、少なくとも「近い延長線上である」と言えます。

演奏者が客席の音を感じながら演奏できるということが良い音楽になる、というのは精神論みたいに聞こえるかもしれませんが、楽器を演奏している人は今そこで鳴っている音を敏感に感じ取って演奏を自然に変えています。「そんなの上級者だけじゃないの?」と思われるかもしれませんが、こういった調整は人間が普通にやれる、やってしまう、というものです。誰だって周りが静かなときには小さな声で喋ります。イヤホンで音楽を聴いているときに話すと声が大きくなって笑われた、なんて経験が誰にもあるんじゃないでしょうか?こうやって、人間は自分がいる音環境に合わせて出す音(声など)を無意識に調整してしまうんですね。これは楽器でも同じです。どんな初心者だって、自分の叩くドラムの音が(音が飽和しているなど、何らかのエラーにより)自分で聴こえない状況下では思いっきり叩いてしまいます。ステージ上の音がタイトでないとシンバルがよく割れます。初心者でも、どんな上級者でもその傾向は変わりません。つまり「周りの環境で自然に音を変えている」

つまり、聴こえない状態だと聴こえるまで大きくしたり、タイトに聴こえる弾き方をしたり、自分の音が大きすぎて音楽的にイマイチだと感じたときに弱く弾いたり、ボリュームを落としたりするのが「自然」であり、実は最も簡単であるというわけです。簡単なのにそこから目をそらせてしまった、というのはライブハウスの責任でもあるかもしれません。「中音」「外音」なんて言って、あたかもミュージシャンたちに「中音は正確に演奏できる聴きやすい音」「外音はリッチでバランスよく」って分離して考えるように仕向けてしまったような気もします。イヤモニが「お金はかかるが理想的な方法」と誤解されているのも、ここからですね。

近年、ライブハウスの音響が良くなってきたと同時にミュージシャンの「もっと良い音でライブをしたい!」という欲求が増えてきたと感じています。それは本当に素晴らしいことなのですが、そもそもの「良い音って何?」に明確な答えが見つけられない状態であることが多いです。レコーディング経験のあるミュージシャンに多く見られるのは「レコーディングで作り込んだ、あの音に近づけたい!」という気持ちです。例えば、昨今のレコーディングは「リアンプ」といって一度レコーディングした音の「加工前」を保存しておいて、ギターアンプを入れ替えたりエフェクターを並べなおしたりして納得いくまでトコトン作り込むことができるため、お金と時間さえかければ音質として「完全に自分の満足いくもの」にまで詰めることができますが、これを「ライブで再現すべき音」として誤認されていることが多いです。あえて僕の立場から言わせていただくと、「誤認」です。確かに自分のイメージ通りの音であるので「正解」のように見えるのは分かりますが、それはライブハウスで再現するのは不可能であり、それを目指して良い結果になることの方が少ないと思います。

「不可能」というと残念な言葉ですが、それは逆にチャンスです。他に目を向けようということです。

まず、音量が違えば聴こえ方がぜんぜん違います。一般的に音量が大きければ大きいほど低音と高音が大きい、いわゆる「ドンシャリ」のように聴こえます。(詳しく知りたければ「等ラウドネス曲線」で調べてみましょう。)また、音が大きくなればなるほどタイトさは無くなります。これはエネルギーというものが大きければ大きいほど止まりにくいからで、軽自動車よりデカいトラックの方がブレーキが効きにくいのを想像していただければ分かると思います。音の「質感」や「心地よさ」というものは、音量が変われば全く別次元のものに変質してしまうということです。ここがかなり重大な落とし穴です。レコーディングでライブと同じくらい大きな音を出してミキシングしているとは考えにくいですし、上で書いたようにリスナーの、リスニング環境に合わせてバランスの調整を行う「べき」なのがレコーディングですから、ライブハウスみたいに大きな音で聴くことを想定しないのが普通だと思います。

この状況で作った「自分の理想の音」これはライブハウスでも再現を目指すべきでしょうか?答えは「ノー」です。再現を目指すあまり、パラメーターを完全に記憶させたデジタル調整をテコでも動かさない人がいますが、それは「デジタルだから再現しているはずだ」という言わば呪いにかかっているように思えてなりません。酷いケースだと、ドラムセットに自分の音がかき消されているから仕方なく音量を「自分が聴こえるくらいまで上げ」、ピーピーとハウリングを起こしていても「おかしいな」と首をかしげるばかりで、僕が「たぶんゲインが高すぎるんだと思う」とアドバイスしても「しぶしぶ」ゲインを下げる…これでは演者も消化不良で楽しくないと思いながらも、どうしようもないときはいじってもらうしかありません。演者のイメージが最優先なので最小限の口出しに留めているつもりですが、残念そうな顔を見るとこちらも申し訳ない気持ちになってしまう。「なんかPAの都合で変えさせられた」とか言わないでください。またお話ししましょう。

ちょっと脱線して愚痴みたいになりましたが、僕が「再現性を求めてもロクなことにならない」と普段から言っているのはこういうわけです。僕の考え方が古いのかもしれませんが、ライブに来たお客さんが求めているのは「CDと同じ音だ!スゲー!」みたいな一発芸ではなく「知ってる曲だけど、もっと凄かった!」みたいな本物の驚きと感動なのではないでしょうか。そこにたどり着くためには、この会場で、今日しか聴けない良い音にフレキシブルに辿り着ける嗅覚なのだと思います。それに身をまかせる術さえ体得していれば、ちょっとした演奏のタッチ、機材のちょっとした調整で十分です。「今日の最高の音」これを目指しましょう。

ライブハウスのPAからの意見としては、毎日同じパワーアンプ、同じスピーカーから音を出しているはずなのにいつも違う音が出ます。これは恐らく温度とか湿度とか、お客さんがどこにどれだけいて、そのお客さんがどんな服を着ているか、などなど無数の「予測できない部分」が大きく影響しています。これはイコライザーである程度は場当たり的に修正が効くのですが、残念ながら今のテクノロジーでは「各音域の音の響き方とか立ち上がり(アタック)、立ち下がり(リリース)」などを修正することはできませんから、同じバンドが同じように演奏したところで毎回「始めまして」な気持ちで臨むしかいないんですね。

今日のいちばん良い音を限られた時間で見つけ出す、というスタンスでライブをすれば、そんなにおかしなことにはなりませんし、本当に良い音、良いライブに辿り着くチャンスもグッと上がります。だからテキトーであれ、みたいなお話に聞こえるかもしれませんが、次にライブや練習スタジオ(同じことです)で音楽をやるときに意識してみてはいかがでしょうか?「再現性」からちょっと距離を置いて、自分の勘にまかせてやってみましょう。そちらの方が「いつものあなたの音だね!」って言われるようになってきます。誰もが自分の好きな音に勝手に向かっていくんだから当たり前です。結果としてレベルの高い「再現性が高い音楽」にも近づいていくのではないでしょうか?手ごたえを感じることができれば、ライブが終わった後に不安な顔をして「どうでしたか」なんて僕に問うこともなくなると思います。「よかったでしょう?」と言ってほしい。その上で、もっと良くするためのアイデアを出し合いましょう。

やはりケースバイケースというか、バンドによる、音楽による、人による、という部分が大きい上にすぐアンタッチャブルな部分に触れそうになってしまうので一方通行でこういうお話をするのは難しいんですが、せっかくこういった場をいただいているのでどんどん書いています。もう少し推敲したり、話す順番なんかをうまくやればもっと分かりやすい話になると思うので、また書籍化したらよろしくお願いします。けっきょく狙ってるんかよって感じですね!もうちょっとこのテーマについて書こうと思っているので来週もよろしくお願いします!

ライブハウス『Fireloop』店長/足立 浩志

プロフィール

足立 浩志

大阪府大阪市のライブハウス

寺田町Fireloop』店長

Twitter:@adatinc

大阪にある、寺田町Fireloopという面白ライブハウスのオーナーで店長です。大喜利が大得意ですが、気の利いた答えを出すまでに1日かかります。

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