【連載】パーティ日和/第10回

<毎週土曜日連載>
集客地獄
なんともう10回目である。振り返ってみると音楽の話を殆どしていない。詐欺師か僕は
節目くらいは音楽の話をしよう、と思ったわけではないが今回はライブハウス、そしてバンドの話だ。
バンドマンの皆様、読むのは構わないが話半分にしてほしい。
さて、ナントカいう感染症のせいでロクにライブもできなくなってしまった我々であるが、そんな中でも我がサロンキティは感染症対策をこれでもかと大盛りにライブ営業を再開した。当然地元のバンドさんとかにも声をかけブッキングしていくのであるが、問題はキャパ制限である。
今まで通り「サロンキティは(その気になれば)400人入れますよ」と言えれば良いのだけど、今は60名という足枷をはめられてしまっている。60名、地元アマチュアバンドの集客力でも結構超えてくる。

なので各バンド手売りというシステムを使う以上、現在の売れ枚数というものを把握しながら集客をしなくてはならず、これが非常に難しい。
チケット売れ行きに関してバンドさんと話し合う機会が増えているのだが、ここで集客の差についての気付きがあったので少し聞いてほしい。これはどこにでもある、地元アマチュアバンドの世界のお話である。
以前から「良い音楽やっとるなー」とか「センスいいなーこの人たち」と思うバンドの集客が伸びず、「もうちょっと練習せんといかんねー」とか「もっと色んな音楽聞いて引き出し増やそうねー」とか思う未発達なバンドさんがお客さんいっぱい連れてくる、という現象がちょいちょいあったのである。
今回も似たような状況になりつつあったので、チケットが売れてないと言う方に思い切って聞いてみた。
「どうやってチケット売ってるの?」と。
そうするとどうだろうか。
「SNSで告知してます」の一言だけだったのである。
少しびっくりした僕は、「いやでも今まで出会ったお客さんとか音楽好きな友達とか誘ったりはしてるんだよね?」と伺ってみたのであるが、「直接は誘いません」とのことであった。
これは読者の皆様にしっかりと伝えておかなくてはいけないのだが、彼らは悪気があるわけではないのである。それが当然、と思っているのだ。
念のため彼らのTwitterなんかを覗いてみた。もしかしたら毎日毎日めちゃくちゃ熱心に告知しているかもしれない。動画なんか載せたりして面白い取り組みをしているかもしれない。ところが見つかった告知は日程と値段を載せた1回だけ。RT3回くらい。
まずハッキリ言っておこう、SNSで雑に告知してチケットが売れるのは芸能人か超メジャーなアーティスト、もしくはイベント自体に集客力がある場合だけである。カン違いしてはいけない、君たちはまだまだ無名なアマチュアバンドだ。
それから「プライド」というものの持っていき方を盛大に間違えている。
- バンドとしてプライドがあるので「ライブ見に来てください」とお願いするのはNG
- バンドとしてプライドがあるので集客が少ないイベントに出るのはNG
- バンドとしてプライドがあるのでチケットノルマがあるイベントは出演NG
本当にあった怖い話状態だがいずれも実際に聞いた話である。一体何様なんだ君は。
1に関してはまだわかるような気もするが、結果お客さんが居なかったらもっとプライド崩壊の危機だと思う。
2は自分たちで集客できるバンドならその通りだと謝る。
3に至っては「僕たちチケット売りませ〜ん」と宣言しているようなものである。そもそも集客できるバンド相手ならチケットノルマなど存在しない。頭が悪い。クソダサい。
本来のプライド、というものはこうである。
☆バンドとしてプライドがあるのでお願いしてでも自分たちのお客さんに見に来てほしい
他人のお客様に人気のない自分たちの音楽を聴いていただいている、という状況を恥ずかしいとは思わないのだろうか。それともスペシャルゲスト、イベントヘッドライナーとして呼ばれたとでも思っているのだろうか。想像力の無さもここまでくると滑稽さを通り越して殺意すら覚えてしまうのは僕だけなのだろうか。
どんなに良い音楽やろうが、来場者が極端に少なくてはお客さんも寄る辺ないだろう。せっかく張り切ってお客さんいっぱい集めたのに会場に自分たちの客しかおらず、その前で他のバンドがのうのうとカッコつけてライブしてたら虚しくもなるだろう。
集客というのはエンターテイメントをやる以上必ず意識しなくてはいけないものであって、アーティスト同士のタタカイはライブ前から始まっているのである。自分たちの音楽を信じているなら、小箱くらいお客さんで埋めてめちゃくちゃ楽しませんかい。そこがアーティストとしての第一歩なんじゃないのか。

ライブハウスを取り巻く疑問や矛盾は僕だって感じている。
正直やりきれない思いをする日だってある。もう辞めてしまおうか、と思うのも年に1度や2度ではない。それでもイベントを仕掛け、出演者やスタッフと一丸となってお客さんを集めてめちゃくちゃ楽しませることが出来たときのあの空気を感じたい。みんなの笑顔が見たいのである。
変なプライドなんか捨てて目の前にある「集客」という壁から目を逸らさず、ぶち破るために頑張ってみないか。そこからはじまる毎日はきっと一目置かれ、評価されて音楽の輪が広がっていく充実した日々だ。
アマチュアのみんな、集客から逃げるな。
ライブハウス『松山サロンキティ』店長/武花 正太
プロフィール

音楽、アニメ、旅、鉄道、廃墟、階段など、引っ掛かりを覚えた物を節操なく取り込んだボーダーレスなライフスタイルは国内外を問わず広く呆れられている。
自身のバンド「MILDS」では作詞作曲、歌、ギター、ピアノを雰囲気でこなし、さまざまな現場でベースを弾く。
DJとしても活動しており、主な得物はなんとアニソンである。