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【連載】パーティ日和/第7回

<毎週土曜日連載>

現代オタクの基礎知識 前編

オタク、という言葉がここ数年で一般大衆レベルまで降りてきたように感じる。

「俺結構オタクなんだよねー」とか「アタシ〇〇オタクだから〜」とかそこらへんの学生とかが普通に言っている。どうしたことだと思っていると、TVの軽薄なバラエティ番組なんかが芸能人を集めてオタクトークなんかするようになった。

そもそもオタク、という言葉は一般的に大人が真剣に嗜む物ではない種類の物事に傾倒し、常識に疎い人種を揶揄する言葉ではなかったか。TVでは何度もアニメやゲームが好きな大人の犯罪を趣味と結びつけ、近しい趣味を持つ人々を不当に糾弾してきたのではなかったか。

それがどうだろう、いわゆるオタクカルチャーに対する海外の評価も僅かながら上がり、ビジネスチャンスとして捉えられてくるとあっという間に手のひらを返しあまつさえ「クールジャパン戦略」などと持て囃し、大企業や自治体までがコラボとか言って便乗してくる始末。なんで道後温泉のお土産屋に鬼滅の刃グッズが並ぶのかさっぱり理解できない。
こんなものは「文化」と呼ぶに相応しくないのではないか。

とまあこんな何百万回も議論されたことをほじくり返しても仕方ないのだが、僕がこのことに関して「けしからん」と言いたくもなるのには理由がある。ぼくは昭和に生まれ平成を駆け抜け、令和を生きるアニメオタクなのである。

僕が中学、高校生だった頃オタクというのは決してバレてはならないものであった。もうみるからにオタク然としていて、クラスで浮いていようが異性に怪訝な目で見られようがおかまい無し、という心にパワードスーツを装着した勇者たちは置いておいて、(実際にそういう人も居た)僕は一般的な振る舞いをし、普通にオタクでない友達も居る平均的な生徒であった。
僕が「爆れつハンター」や「機動戦艦ナデシコ」、「魔神英雄伝ワタル」「ふしぎ遊戯」などのアニメを好んで観ていると知られる訳にはいかなかったのである。
絶対にクラスの友達の前ではその話はしなかったし、圧倒的にその手のアニメ好きな感じの人たちの会話を盗み聞きし激しく同意したところで会話に加わることは無かった。修行僧のような心で自分を律していたのである。

僕のデスク全景。そこかしこにオタクの痕跡

そうして個人的にアニメコンテンツと逢瀬を交わし、外では別の人格を演じるという日常を過ごし何も問題なく暮らしていたある日、事件は起こった。「新世紀エヴァンゲリオン(1995年)」の爆発的なヒットである。

当時の僕は「不思議の海のナディア」によって完全に心を奪われていたので庵野秀明、貞本義行のタッグで制作される最新ロボット風アニメにときめきまくっていた。(残念ながら愛媛県での放送はなかったので千葉に住む旧友からVHSに録画して送ってもらって視聴した)放送当時は特に誰も話題にしなかったし面白かったといえば面白かったのだがかなりの消化不良に終わり劇場版が待たれるといった塩梅の頃、クラスの人間に変化が訪れた。

これまでアニメのアの字も発してこなかった友人が、突然「綾波レイ(エヴァンゲリオンの登場人物)」という単語を発したのである。僕の心臓は爆発寸前まで動揺し、盛大に反応に困った。多分脂汗をかきながら気持ち悪い受け答えをしてしまったと思う。
仕方がないであろう、これまで尻尾を出さないよう自ら避けてきた話題をテキが出してくるのである。「興味ない」「知らん」と平然と言えればよかったのだがそれは正に踏み絵である。異教徒をあぶり出すかの如きエヴァンゲリオン旋風はその後も続き、僕はすっかり平常心を失ってしまった。二つの人格を完璧に演じるなんて、まだ若い自分には無理があったのだ。
こうして短い青春はどっちつかずに終わり、僕は少しずつ大人になっていった。

時は流れ、バンドやりながらアニメを多数視聴し、美少女ゲームもやりこむ妙な暮らしを送っていた30歳の僕の元に一つのオファーが訪れた。

「夏のコミックマーケットで売り子をやってくれないか」というものであった。

コミックマーケット。

オタク達の祭典。

あこがれの東京ビッグサイト。

二つ返事で了解した僕はそれはもうワクワクしながら当日を迎えた。ものすごい人の数、熱気にまみれた会場にはさまざまな同人誌が溢れ、いただいた休憩時間には会場をゆっくり見て回った。どの人も心から楽しんでいる。開場から時間が経っているからか目当てのものを早足に買い集める険しい顔は姿を消し、ブースで談笑する人、会場の隅で戦利品を讃え合う人、コスプレしてる人、それを撮る人。おもいおもいに楽しむ人々を見てここがユートピアかと思った。やがて日は暮れコミケ終了のアナウンスが終わると参加者が盛大な拍手を送った。誰かに向けての拍手ではない、会場に集まった全ての人々に対する、コミケという文化に対する拍手だと思った。なんて暖かいんだろう、こんなに沢山の人が同じ方向を向いている。みんなで作った、心から楽しい1日。初めて参加した僕さえもその一員だった。この体験はその後、僕のイベントオーガナイザーとしての思想に深く根付いた。

こうやってオタク人生を謳歌してきた僕であるが、前述したように「オタク」という言葉がすっかり変化してしまったと感じるのである。来週はようやくそこのところに触れていこうと思う。

ライブハウス『松山サロンキティ』店長/武花 正太

プロフィール

武花 正太

愛媛県松山市のライブハウス

松山サロンキティ』店長

Twitter:@take87syouta

音楽、アニメ、旅、鉄道、廃墟、階段など、引っ掛かりを覚えた物を節操なく取り込んだボーダーレスなライフスタイルは国内外を問わず広く呆れられている。

自身のバンド「MILDS」では作詞作曲、歌、ギター、ピアノを雰囲気でこなし、さまざまな現場でベースを弾く。

DJとしても活動しており、主な得物はなんとアニソンである。

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