1. HOME
  2. ブログ
  3. 【連載】ファイアーループ足立のライブハウスなんかやめてやる!!/第51回

【連載】ファイアーループ足立のライブハウスなんかやめてやる!!/第51回

<毎週日曜日連載>




配信の音のことばっかり考えている

おはようございます。ファイアーループの足立です。最近は、というか、コロナが始まって以来ずーっと考えていることがあります。それは「配信の音について」。どうやったら配信の音が良くなるんだろうか、常々それについて頭を悩ませております。これが本当に難しくて面白い。

ライブハウスの音は超でっかくて、時に超小さいです。それをイヤホンとか、アイホンとか、パソコンとか家のスピーカーで聴くんですから、そのままマイクで収録してライブハウスっぽくなるわけがないです。まず音の大きさが違えば聴こえ方がぜんぜん違います。もうこの時点で諦めるしか無いのですが、じゃあどう諦めるかが肝要になってくる。諦めるというのは「そのまま収録するのは諦める」であって、良いものを収録し、聴かせることを諦めるわけでは決して有りません。これを僕は「いいデフォルメをする」と表現しています。

いま最もリッチなシステムでのライブ配信音は、マルチチャンネルでの収録です。これはどういうことかというと、ライブハウスって全部の楽器いっこいっこにマイクが立っているじゃないですか。あれを録音用のミキサーにも分けて送って、別の部屋で「配信用の音」をリアルタイムでミックスするんです。さながら、配信担当のPAさんですね。PAというのは「パブリック・アドレス」つまり「たくさんの人に音を聴かせる」というのが主旨ですから、配信音をミックスする人は広義で「PA」と呼べると思います。今の時代に生まれた、新しいカタチのPAさんです。

この仕事、僕はやったことはないのですが、さながら「PAとレコーディングエンジニアとマスタリングエンジニアのハイブリッド」と呼べるわけで、そうとう難しい仕事だと思います。機会があったらぜひチャレンジしてみたいです。

コロナが始まる前にはほぼそんな仕事はなかったのですが、それに近い試みはありました。「ヘッドホンライブ」です。ワイヤレスでお客さんのヘッドホンやイヤホンに音を飛ばして、演奏はラインやエレドラでやるというやつです。なんでこんなことをわざわざするのかというと、防音がない場所でもロックバンドのライブがやれちゃう、ということですね。屋外とか会議室とか。僕もずっと興味を持っていて、ただしこれは非常に難しいです。

まず、たくさんのヘッドホンに遅延なく音を送るテクノロジーがちゃんと確立されていないです。僕が知らないだけかも知れませんが、何件か聞いた話ではだいたいそこでトラブってました。B帯とかで周波数を合わせたら何人でも聴けそうなのに、どうやらそんなに簡単な話ではなさそうです。これができるなら一つのコントローラーでたくさんラジコンを走らせることもできそうなのですが、なんかウチにある27MHzのオモチャラジコンを2つ置いてもちゃんと2台走らない。ブツブツ途切れる感じがします。電波のこと、何もわかってないので原因がどこにあるかは分かりません。

もう一つは、配信にも言えることですが「イヤホンとかヘッドホンで聴いて音楽的になるようにミックスする」のが超難しいということです。あまりに経験がなさすぎたので、実は2件ほど「やらないか」と誘われていたのですが丁重にお断りしてしまいました。簡単に引き受けていい仕事じゃない。とにかくミックスと、マスタリングをリアルタイムでやるっていうのが未知過ぎます。未知なりに、なにがどう難しいのか今回は紐解いていきましょう。

ライブハウスでは基本的に「マスタリング」の作業は必要ありません。マスタリングというのは1つ目に、色んな楽曲の音圧感を揃える仕事です。CDの中にミチミチの曲があったり、スカスカな曲があったりすると聴いている側はすぐボリュームをいじりたくなりますから、そこを揃えるのがまずは大事な仕事。コンピなんか大変です。もう一つは、色んな環境で(例えばイヤホン、ヘッドホン、スマホ、家のスピーカーやコンポ、あるいはカーステなど)色んな音量で聴かれることを前提とした上で、どんな環境でもショボくない音楽的な音を届けることを目指します。そして、最も大事なのが各楽器の手を繋ぐ作業です。色んな考え方があると思いますが、僕の解釈ではこうです。ミックスだけした音源と、マスタリングされた音源ではそこが明らかに改善されています。

ライブハウスでマスタリングが不要なのは、上で挙げた仕事が十分に成り立っているからなんです。みんな同じ音量で聴いているので、今の現場のリアルタイムな聴感で調整すれば正解なんです。極端な話、デカい曲のあとにめっちゃ小さい音量の曲を演奏した場合にもPAがマスター音量を適正に調整できます。ていうかお客さんにはボリュームをいじる選択肢がないので、そこはPAに任されているというわけです。「各楽器の手を繋ぐ」という部分に関してはさらに有利で、ライブハウスでは楽器同士が同じ空間にあるために起きる「共鳴」が各楽器の手をすでに繋いでいます。その楽器同士の共鳴を、ある意味シミュレートしようという行為がマスタリングなのだと解釈しています。

で、このヘッドホンライブ、あるいは配信音、収録音ですね。これはお客さんにボリュームを委ねられるわけですからやはりマスタリングが必要です。ラインとエレドラで鳴った音同士に「共鳴」なんてありませんから、そこもゴリゴリシミュレートしなくちゃならない。ものすごく難しそうです。

ライブハウスの生配信では、生の楽器が鳴っている上にレコーディングの様な「ブース録り」ではないですから、楽器同士の共鳴、つまり手を繋ぐということは概ねクリアしています。だから、マルチチャンネルで録った音で単にミックスするだけでもある程度のクオリティにはなります。ウチの録音・録画もコロナ前まではいわゆる「ライン録り(つまり、PAから出ているステレオ音声信号をそのまま録音するだけ。メモ録とか言われたりする)」で、マルチチャンネルで別ミックスなんて凝ったことはしていないにしてもそこそこ音楽として聴ける音源ではありました。Fireloopが去年末までやっていた「ライブラジオ」はコロナ前に録画していたものから抽出した音源を主に使っていたのですが、音楽として楽しく聴ける感じであったと自負しています。しかしながら、それではクオリティが足りない。ライブハウスの音をもっと正当に「価値のある音」として収録したくなった、というのが本音です。

さて、もう少しマスタリングのお話をしますと、ライブハウスというのは「会場の響き」や「スピーカーの限界」「演奏者やエンジニアなど、人間が聴いてリアルタイムに調整している」という部分で十分マスタリングされている音であると言い換えることが出来ます。マスタリングがそのシミュレートであると言ったばかりなので逆説的ですが、平たく言うと「ライブハウスで聴く音はマスタリングいらず」と言えるわけですね。つまり、それをそのまま収録するシステムが欲しくなってくる。

しかしながら、ライブハウスで聴く音楽のダイナミックレンジはマジで、超絶広いのです。デカい音と小さい音の音量差が大袈裟でなく100倍くらい違います。生声のMCは会場のお客さんには聞こえるけど、配信のリスナーには聞こえません。それくらい大小の差がデカいです。この差をどう縮めるか。ここは「コンプレッサー」の出番ですね。

ただし、このコンプレッサーも万能では有りません。人間の耳には10億円くらいのコンプレッサー(もっとか)が搭載されていると言っていいと思います。そんなコンプはこの世には存在しませんから、やはり現状では「そっくりそのまま、聴いたまま」を目指すには程遠いです。またお得意の「だから諦めよう!ドン!」が出そうになりますが、今回ばっかりはそうじゃありません。最初に書いたように、諦めるのではなく新しいものを作るという気概が大切です。むしろ「ある角度から見ると」ライブハウスの会場で聴くよりも良い物が聴けないと意味なんかないと言えるでしょう。僕たちは何かの劣化版なんてやっちゃいけないんです。

CDの劣化版には価値はないし、ライブハウスの劣化版にも価値はないと思います。そうではなく、新しい音楽の楽しみ方を提示するべきなんだと考えています。そうなるとこれはまだまだ発展途上の文化ですからアイデア出し放題。いろいろ工夫して、あれでもないこれでもないと研究して、音楽として気分の良いものを自由に提案できるわけですからこれほど燃えるものはありません。

「配信疲れ」「配信飽き」なんていう言葉を今年になってから聞くようになりました。僕が考えるにそれは、ミュージシャンにとってもリスナーにとっても「ライブ配信=ライブハウスの代替品=劣化版」として何かミジメなモノとして捉えられてきたからではないでしょうか。ライブ配信はもっとリッチな気分で楽しんでほしいのです。実際にライブハウスに行ったら楽しめない部分、拾えない部分を配信なら拾える、そう考えるとそれは既に何の劣化版でも有りません。メンバーの顔がアップになるだけでも、そんな視覚はライブハウスの現場では味わえないんです。音が大きすぎて耳が痛くなることも、立ちっぱなしで足が痛くなることも、飲めないお酒を強要されたり電車で揉まれることもなく、ゆったりリッチな気持ちで配信を見て聴いてくれる人がいたら嬉しいです。

と、ここまで風呂敷を広げるとマジでクオリティをゴリゴリに上げないと気がすまないのはお分かりいただけると思います。クオリティが最高に高くないとやっぱりチープなんです。そんな悲しいものを、「これが新しい文化なんだゾ」とか無理やりドヤっても音楽好きは騙せません。だから、技術者はそこに対して責任感と夢を持って頑張れるのだと思います。

今日はなんかよくわかんないこといっぱい書きましたが、最近また「配信の音のクオリティを上げるためには」というお題で、20年間頑張って研究してきたPAと同じくらいのモチベーションで頑張れているので楽しいです。できればちゃんとお金もかけて、でも高い機材だから良いとか悪いとかそういった部分でも知識や審美眼が必要になってくると思います。PAはいったん極めたつもりなのでそろそろ他やりたいな、なんて調子に乗っていた時期なので丁度いいです。今後もライブハウスの配信音の進化に期待していてください。ではまた来週!

ライブハウス『Fireloop』店長/足立 浩志

こちらもオススメ!

プロフィール

足立 浩志

大阪府大阪市のライブハウス

寺田町Fireloop』店長

Twitter:@adatinc

大阪にある、寺田町Fireloopという面白ライブハウスのオーナーで店長です。大喜利が大得意ですが、気の利いた答えを出すまでに1日かかります。

過去の連載記事




関連記事